この故事成語は、降りかかった災難や不幸を逆手にとって、最終的には幸福や利益に変えることを意味します。単に耐え忍ぶのではなく、積極的に状況を好転させるという意味合いが強い言葉です。
故事成語ができたきっかけの出来事
「禍を転じて福と為す」の直接的な出典は、中国の歴史書『塩鉄論(えんてつろん)』という書物にあるとされています。
- 時代: 前漢時代
- 背景: 当時、漢の武帝の時代に確立された「塩と鉄の専売制」や酒の専売制、均輸法といった経済政策について、それを推進する「文学」と呼ばれる学者たちと、それに反対する「賢良」と呼ばれる人々が議論を交わした記録が『塩鉄論』です。
- 具体的な記述: 『塩鉄論』の中の「論功(ろんこう)」という篇で、昔の聖王が民の力を借りて天下を平定した話の中で、「聖人は禍を転じて福と為す」という趣旨の記述があります。ここでは、国家の危機や困難な状況を、賢明な指導者がうまく対処することで、最終的に国家の利益や安定につなげた、という文脈で使われています。
つまり、ある特定の劇的な出来事から生まれたというよりは、困難な状況をいかに好転させるかという、当時の為政者や思想家の知恵や哲学として述べられた言葉が、後世に故事成語として広く知られるようになったと考えられます。
現代ビジネス社会でどのように使うか
「禍を転じて福と為す」は、現代ビジネス社会においても非常に示唆に富む考え方であり、様々な場面で活用できます。
1. 危機管理とリスクマネジメント
- 使い方: 予期せぬトラブルや顧客からのクレーム、市場環境の急激な変化など、ネガティブな事象が発生した際に、「これはチャンスだ」と捉え、問題の本質を深く探ることで、新たな改善策やビジネスチャンスを見出す。
- 例: 製品の欠陥が発覚した際、単に回収・謝罪で終わらせるのではなく、顧客の声に耳を傾け、徹底的な原因究明と品質改善を行うことで、企業の信頼性をむしろ向上させる。競合他社の不祥事が起きた際に、自社の倫理規定やコンプライアンス体制を再確認し、より強固なものにする。
2. 新規事業開発とイノベーション
- 使い方: 既存事業の停滞や市場の縮小といった「禍」を、新しい技術やサービスを開発する「福」の機会と捉える。失敗を恐れず、むしろ失敗から学びを得て次の成功に繋げる。
- 例: ある事業部が赤字に転落した際、それを人員整理や事業縮小で終わらせるのではなく、そこで培った技術やノウハウを応用して、全く新しい市場をターゲットにした事業を立ち上げる。コロナ禍で需要が激減した業界が、オンラインサービスや非接触型ビジネスへの転換を加速させ、新たな収益源を確保する。
3. 人材育成とチームビルディング
- 使い方: チーム内の対立や個人の失敗を、成長の機会と捉え、コミュニケーションの改善やスキルの向上に繋げる。困難なプロジェクトを共有することで、チームの結束力を高める。
- 例: プロジェクトが難航し、チーム内で意見の衝突が起きた際、それをネガティブな要素として放置せず、徹底的な議論と相互理解を促すことで、より強固で創造的なチームへと変貌させる。新入社員のミスを厳しく叱責するだけでなく、具体的な改善策を共に考え、次の成功体験へと導くことで、彼らの成長を促す。
4. 企業文化の醸成
- 使い方: 困難に直面した際に、それを乗り越えるためのポジティブな姿勢やチャレンジ精神を企業文化として浸透させる。失敗を許容し、そこから学ぶ文化を育む。
- 例: 「失敗は成功のもと」という考え方を組織全体で共有し、新しい挑戦を奨励する。困難な目標を達成した際に、その過程で得られた教訓や学びを全社で共有し、今後の成長の糧とする。

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