五里霧中〜霧の中でも一歩ずつ、先が見えない時の道しるべ

故事成語

「今のプロジェクト、まさに五里霧中だね……」会議でこんな言葉を耳にしたことはありませんか。先の見えない状況を表すこの故事成語、実は中国・後漢時代のちょっと不思議なエピソードから生まれました。今回は「五里霧中」の意味から歴史、ビジネスでの使い方まで、まるごと解説します。

「五里霧中」の意味

「五里霧中(ごりむちゅう)」とは、深い霧の中に迷い込んだように、物事の見通しが立たず、どうしてよいか判断がつかない状態を指す言葉です。「まったく手がかりがない」「方針が定まらない」といった、途方に暮れた心境を表現するときに使われます。

ここで注意したいのが表記です。よく「五里夢中」と書き間違えられますが、正しくは「霧」の字を使います。「五里四方に立ちこめる霧の中」という情景がもとになっているので、夢ではなく霧なのです。区切り方も「五里・霧中」ではなく「五里霧・中」、つまり「五里霧」という霧の中にいる、というのが本来の構造です。

  • 読み方:ごりむちゅう
  • 意味:物事の見通しが立たず、判断や方針に迷うこと
  • 類義語:暗中模索、雲をつかむよう、暗礁に乗り上げる
  • 対義語:明明白白、一目瞭然

故事成語ができた経緯・歴史

物語の舞台は、今からおよそ1900年前の中国・後漢時代。張楷(ちょうかい)という学者がいました。彼は儒学の名門の家に生まれ、若くして数百人の弟子を抱えるほどの評判を得ていた人物です。

ところが張楷は、名声にも出世にもまったく興味がありませんでした。朝廷から何度も「役人として仕えてほしい」と誘われても、そのたびに病気を理由に断り続けます。それでも訪ねてくる人が絶えないため、ついには山奥に引きこもってしまいました。

そんな張楷には、変わった特技があったと伝えられています。それが「五里霧」——五里(当時の中国の一里は約400メートルなので、およそ2キロメートル四方)にわたって霧を発生させる術です。人に会いたくないとき、彼はこの霧を起こして自分の姿を隠してしまったといいます。

ちなみに同じ時代に、裴優(はいゆう)という人物が「三里霧」を起こす術を使えたそうですが、張楷の五里には及ばず、弟子入りを願い出たものの張楷は姿を隠して会わなかったと記されています。

この「五里にわたる霧の中に閉じ込められて、何も見えない」という状況が、やがて「先が見通せず途方に暮れる」という比喩として定着し、現在の「五里霧中」という言葉になりました。もともとは仙術のエピソードだったものが、時代を経てビジネスパーソンの口癖になっているのは、なんだか面白いですね。

ビジネスシーンでの使い方(例文3つ)

「五里霧中」は、計画が思うように進まないときや、情報不足で判断できないときに使える便利な言葉です。ただしネガティブな響きがあるので、「今は五里霧中だが、こう動く」とセットで語ると前向きな印象になります。

例文1:新規事業の立ち上げで

「新市場への参入は五里霧中の状態ですが、まずは小規模なテスト販売でデータを集め、判断材料をそろえていきましょう。」

前例のない挑戦で情報が足りない場面にぴったりです。「だからこそ小さく試す」と続けることで、単なる弱音ではなく戦略の説明になります。

例文2:トラブル対応の会議で

「原因究明は五里霧中でしたが、ログを一件ずつ突き合わせたことで、ようやく糸口が見えてきました。」

過去形で使うと「困難を乗り越えた」というニュアンスが出ます。報告の場面では、この形が使いやすいでしょう。

例文3:経営計画の見直しで

「原材料価格の変動が読めず、来期の収支見通しは五里霧中です。複数のシナリオを想定した計画を立てておくべきだと考えます。」

外部環境の不確実性を説明するときの定番表現です。「だから複数案を用意する」と提案につなげるのがポイントです。

原文の出典

  • 書名:『後漢書』張楷伝(范曄 撰・5世紀成立)
  • 時代背景:後漢(1〜2世紀ごろ)

原文

性好道術、能作五里霧。時關西人裴優亦能為三里霧、自以不如楷、從學之、楷避不肯見。

読み下し文

性(せい)道術を好み、能(よ)く五里霧を作(な)す。時に関西の人 裴優(はいゆう)も亦(また)能く三里霧を為(な)すも、自ら楷(かい)に如(し)かずと以(おも)い、之(これ)に従いて学ばんとするに、楷 避けて肯(あ)えて見えざりき。

現代語訳

張楷は生まれつき仙術を好み、五里四方に霧を起こすことができた。当時、関西の裴優という人物も三里四方の霧を起こせたが、自分は張楷に及ばないと考え、弟子入りして学ぼうとした。しかし張楷は身を隠し、会おうとしなかった。

まとめ

「五里霧中」は、後漢の学者・張楷が起こしたという不思議な霧のエピソードから生まれた言葉で、見通しが立たず判断に迷う状態を表します。「夢中」ではなく「霧中」と書く点だけは、ぜひ覚えておいてください。

ビジネスの現場では、不確実な状況を正直に共有することが、チームで次の一手を考えるきっかけになります。霧が晴れるのを待つのではなく、一歩ずつ歩きながら視界を開いていく——そんな姿勢を後押ししてくれる言葉かもしれませんね。

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