狡兎三窟〜賢いウサギに学ぶ、ビジネスを守る「3つの逃げ道」

故事成語

「ひとつの取引先に売上の大半を頼っていて、なんだか不安…」。経営をしていると、そんな心配をすることがありますよね。今回は、まさにその不安にこたえてくれる故事成語「狡兎三窟(こうとさんくつ)」を紹介します。2000年以上前の中国で生まれた、リスク管理の知恵がつまった言葉です。

「狡兎三窟」の意味

「狡兎三窟」は、「すばしこいウサギは隠れ穴を3つ持っている」という意味です。そこから、賢い人は災いを避けるために、いくつもの逃げ道や備えを用意しているというたとえとして使われます。

「狡」という字には「ずる賢い」という意味もあるので、文脈によっては「抜け目がない」「立ち回りがうまい」といった少し皮肉っぽいニュアンスになることもあります。ただ、もとの話では「用心深く、しっかり備える」という前向きな意味合いが中心です。

  • 読み方:こうとさんくつ
  • 意味:身の安全のために、複数の逃げ道や備えを用意しておくこと
  • 似た言葉:備えあれば憂いなし、リスク分散

故事成語ができた経緯・歴史

舞台は中国の戦国時代。斉(せい)の国に、3000人もの食客(しょっかく:主人の家に住まわせてもらい、才能で仕える人たち)を抱えていた孟嘗君(もうしょうくん)という名宰相がいました。その食客のひとりが、この話の主人公・馮諼(ふうけん)です。

あるとき孟嘗君は、自分の領地・薛(せつ)の住民から貸付金を取り立てるよう馮諼に頼みます。ところが馮諼は、現地で借金の証文をすべて焼き捨ててしまいました。そして「あなたに足りない『義(人々の恩義)』を買ってきました」と報告したのです。孟嘗君はおもしろくありませんでした。

しかし1年後、孟嘗君は王の怒りを買って宰相をクビになってしまいます。失意のまま薛へ向かうと、住民たちは総出で彼を出迎えました。孟嘗君はここでようやく馮諼の深い考えに気づきます。これが1つ目の窟(隠れ穴)でした。

馮諼はさらに隣国の梁(りょう)へ行き、「孟嘗君を迎えれば国が強くなる」と王に売り込みます。梁が孟嘗君を招こうとしていると知った斉王はあわてて謝罪し、孟嘗君を宰相に戻しました。これが2つ目の窟です。最後に馮諼は、薛に王家の祖先をまつる宗廟(そうびょう)を建てさせました。これで斉王も薛を簡単には攻撃できなくなります。これが3つ目の窟となり、孟嘗君はその後、長く安泰に過ごしたといわれています。

ビジネスシーンでの使い方(例文3つ)

現代のビジネスでは、「リスク分散」や「BCP(事業継続計画)」の考え方にぴったり重なる言葉です。

  • 「売上の7割が1社に集中しているのは危険です。狡兎三窟のつもりで、新しい販路を2つは開拓しておきましょう。」
  • 「仕入れ先を1社に絞るとコストは下がりますが、狡兎三窟の考え方で、予備の調達ルートも確保しておくべきです。」
  • 「彼は本業のほかに講演と執筆の仕事も持っていて、まさに狡兎三窟だね。景気が変わっても揺るがない強さがある。」

なお、人に対して使うと「ずる賢い」と受け取られる場合もあります。目上の人に使うときは「しっかり備えていらっしゃる」と言い換えるのが無難です。

原文の出典(書名・原文・読み下し文)

出典:『戦国策(せんごくさく)』斉策四
※同じ話は司馬遷の『史記』孟嘗君列伝にも登場します(こちらでは人物名が「馮驩(ふうかん)」となっています)。

原文:
狡兔有三窟、僅得免其死耳。今君有一窟、未得高枕而臥也。請為君復鑿二窟。

読み下し文:
狡兎(こうと)は三窟(さんくつ)有りて、僅(わず)かに其の死を免(まぬか)るるを得るのみ。今、君は一窟有るのみ。未だ枕を高くして臥(ふ)すを得ざるなり。請(こ)う、君の為に復(ま)た二窟を鑿(うが)たん。

現代語訳:
すばしこいウサギは穴を3つ持っていて、それでやっと死を逃れることができます。今、あなたには穴が1つしかありません。これではまだ安心して眠ることはできません。どうか、あなたのためにもう2つ穴を掘らせてください。

ちなみに、「枕を高くして寝る(安心して眠る)」という慣用句もこの一節に由来しています。

まとめ

「狡兎三窟」は、いざというときのために複数の備えを用意しておく大切さを教えてくれる言葉です。取引先・仕入れ先・収入源など、自社の「穴」がいくつあるか、この機会に見直してみてはいかがでしょうか。平時のうちに次の穴を掘っておくことが、安心して「枕を高くして眠る」いちばんの近道ですよ。

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