「入社して3年、鳴かず飛ばずの日々が続いている…」。こんなふうに、パッとしない状態を表すときに使われるのが「鳴かず飛ばず」です。実はこの言葉、もともとは前向きな意味を持つ故事成語だったことをご存じでしょうか?今回は、その意味と由来、ビジネスでの使い方まで、わかりやすくご紹介します。
「鳴かず飛ばず」の意味
「鳴かず飛ばず(なかずとばず)」は、長いあいだ目立った活躍や成果がなく、パッとしない状態が続くことを表す言葉です。鳥が鳴きもせず、飛びもしない様子にたとえています。
ただし、もともとの意味は少し違います。本来は「将来の大きな飛躍に備えて、じっと力を蓄え、機会を待っていること」を指していました。つまり、昔は「今は静かだけれど、いずれ大きなことをやる」という前向きなニュアンスだったのです。現代では「成果が出ない」という否定的な意味で使われるのが一般的なので、使う場面には少し気をつけましょう。
- 現代の意味:長い間、これといった活躍や成果がないこと
- 本来の意味:大きな活躍の機会に備え、じっと力を蓄えていること
- 関連する言葉:「一鳴驚人(いちめいきょうじん)」「雌伏(しふく)」
故事成語ができた経緯・歴史
この言葉の舞台は、今から約2600年前の中国・春秋時代です。南方の大国「楚(そ)」で、荘王(そうおう)という若い王が即位しました。
ところが荘王は、即位してから3年間、政治にはまったく手をつけず、昼も夜も宴会や音楽にふけってばかり。しかも「わしをいさめる者は死刑にする」というお触れまで出していました。家臣たちは国の行く末を心配しますが、命が惜しくて誰も口を出せません。
そこで勇気を出したのが、家臣の伍挙(ごきょ)です。伍挙は直接いさめるのではなく、なぞなぞの形でこう問いかけました。「丘の上に鳥がいて、3年間飛びもせず鳴きもしません。これはどんな鳥でしょうか?」
すると荘王はこう答えます。「3年飛ばなかった鳥は、ひとたび飛べば天まで届く。3年鳴かなかった鳥は、ひとたび鳴けば人を驚かす。おまえの言いたいことはわかっている」。
実は荘王は、遊んでいるふりをしながら、家臣の中で誰が忠臣で誰が悪臣かをじっと見極めていたのです。その後、荘王は政治に本腰を入れ、悪い家臣を処分して優れた人材を登用しました。そして楚を強国に育て上げ、ついには「春秋五覇(しゅんじゅうごは)」の一人に数えられるほどの名君となりました。
ビジネスシーンでの使い方(例文3つ)
現代のビジネスシーンでは、主に「成果が出ていない状態」を表すときに使います。自分のことを謙遜して言うときや、状況を客観的に説明するときに便利です。
- 「新商品は発売から半年、鳴かず飛ばずの状態が続いているので、販促方法を見直しましょう。」
- 「独立して最初の2年は鳴かず飛ばずでしたが、補助金を活用した設備投資をきっかけに売上が伸び始めました。」
- 「今は鳴かず飛ばずに見えるかもしれませんが、荘王のように力を蓄える期間だと考えて、地道に準備を進めています。」
なお、他人に対して「あの人は鳴かず飛ばずだ」と言うと、相手を見下した印象を与えてしまいます。目上の人や取引先に向けて使うのは避けたほうが無難です。
原文の出典
出典:『史記(しき)』楚世家(そせいか)(前漢・司馬遷 著)
【原文】
荘王即位三年、不出号令、日夜為楽。令国中曰、有敢諫者死無赦。伍挙入諫。(中略)伍挙曰、願有進隠。曰、有鳥在於阜、三年不蜚不鳴、是何鳥也。荘王曰、三年不蜚、蜚将沖天。三年不鳴、鳴将驚人。挙退矣、吾知之矣。
【読み下し文】
荘王即位して三年、号令を出ださず、日夜楽しみを為す。国中に令して曰はく、「敢へて諫むる者有らば、死して赦す無し」と。伍挙入りて諫む。(中略)伍挙曰はく、「願はくは隠を進むる有らん」と。曰はく、「鳥有り阜に在り、三年蜚ばず鳴かず。是れ何の鳥ぞや」と。荘王曰はく、「三年蜚ばざるも、蜚ばば将に天を沖かんとす。三年鳴かざるも、鳴かば将に人を驚かさんとす。挙退け、吾之を知れり」と。
※「蜚」は「飛」と同じ意味の字です。同じ話は『韓非子(かんぴし)』喩老篇にも載っています。また、『史記』滑稽列伝には、斉(せい)の威王と淳于髡(じゅんうこん)による似たやりとりが記されています。
まとめ
「鳴かず飛ばず」は、今では「パッとしない状態」を表しますが、もとは「大きく飛躍するために力を蓄える期間」を意味する言葉でした。成果が出ない時期が続いても、それは荘王のように次の一手を準備する大切な時間なのかもしれません。焦らずに力を蓄え、ここぞという場面で「一鳴驚人」を目指しましょう!


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