「そんな特技、仕事の役に立つの?」と思うようなスキルが、いざというときに組織を救うことがあります。今回ご紹介する故事成語「鶏鳴狗盗(けいめいくとう)」は、まさにそんなエピソードから生まれた言葉です。意味や由来、ビジネスでの使い方まで、わかりやすく解説していきますね。
「鶏鳴狗盗」の意味
「鶏鳴狗盗」とは、ニワトリの鳴きまねをしたり、犬のように忍び込んで盗みをはたらいたりするような、取るに足らない技能(を持つ人)のことです。
実はこの言葉、使い方によって意味の重心が変わります。
- 否定的な意味:小手先の技やつまらない才能しかない人、小策を弄する人をさげすむ表現
- 肯定的な意味:一見くだらない技能でも、場面によっては大いに役立つことがあるというたとえ
辞書では前者の意味が中心ですが、元になったエピソードを知ると、後者の意味のほうがしっくりくるかもしれません。
故事成語ができた経緯・歴史
舞台は紀元前3世紀ごろ、中国の戦国時代です。斉(せい)の国に、孟嘗君(もうしょうくん)という有力な人物がいました。彼は「食客(しょっかく)」と呼ばれる居候の人材を数千人も抱えていたことで有名です。身分や才能を問わず、誰でも受け入れていたそうです。
あるとき孟嘗君は、秦(しん)の昭王に招かれて秦へ行きます。ところが「斉の人間を宰相にするのは危険だ」と考えた秦の側に捕らえられ、命まで狙われてしまいました。
孟嘗君は昭王のお気に入りの女性(幸姫)に助けを求めます。すると彼女は「狐白裘(こはくきゅう)」という、キツネのわきの下の白い毛皮で作った最高級のコートを見返りに求めてきました。しかし、そのコートは秦に着いたときに昭王へ献上してしまっていて、もう手元にありません。
ここで活躍したのが、末席にいた「犬のように忍び込んで盗むのが得意な」食客です。彼は夜中に秦の宮殿の蔵へ忍び込み、献上したコートを盗み出してきました。それを幸姫に贈ると、彼女のとりなしで孟嘗君は釈放されます。
孟嘗君は急いで逃げ、夜中に国境の関所「函谷関(かんこくかん)」に着きました。ところが関所には「ニワトリが鳴くまで門を開けない」という決まりがあります。後ろからは追っ手が迫っています。
そこで今度は「ニワトリの鳴きまねが得意な」食客が声をあげました。するとあたりのニワトリがつられて一斉に鳴き出し、門が開いて、一行は無事に脱出できたのです。
ちなみに後の時代、宋の王安石(おうあんせき)は「孟嘗君は鶏鳴狗盗の親分にすぎない」と批判しました。この言葉に否定的な意味があるのは、こうした評価の影響もあります。
ビジネスシーンでの使い方(例文3つ)
- 例文1:「鶏鳴狗盗というように、彼の動画編集のスキルが新商品のPRでこんなに役立つとは思わなかった。」
- 例文2:「目先の数字をつくろうとする鶏鳴狗盗のやり方では、会社は長く続きませんよ。」
- 例文3:「中小企業こそ鶏鳴狗盗の精神で、社員一人ひとりの意外な得意分野を把握しておくべきです。」
例文2のように批判の意味で使うと、相手にきつく聞こえることがあります。目上の方に使うときは気をつけましょう。
原文の出典
書名:『史記(しき)』孟嘗君列伝(司馬遷 著)
原文(狗盗の場面):
最下坐有能為狗盗者。曰、臣能得狐白裘。乃夜為狗、以入秦宮臧中、取所献狐白裘至、以献秦王幸姫。
読み下し文:
最下坐(さいかざ)に能(よ)く狗盗を為す者有り。曰はく、「臣能く狐白裘を得ん」と。乃ち夜狗と為り、以て秦宮の臧中(ぞうちゅう)に入り、献ずる所の狐白裘を取りて至り、以て秦王の幸姫に献ず。
原文(鶏鳴の場面):
関法、鶏鳴而出客。孟嘗君恐追至。客之居下坐者、有能為鶏鳴、而鶏斉鳴。遂発伝出。
読み下し文:
関の法、鶏鳴きて客を出だす。孟嘗君追ひの至らんことを恐る。客の下坐に居る者、能く鶏鳴を為すもの有りて、鶏斉しく鳴く。遂に伝(でん)を発して出づ。
まとめ
「鶏鳴狗盗」は、取るに足らない技能を表す言葉です。一方で、どんな才能もいつか役立つ場面があるという教えも含んでいます。自分や仲間の「ちょっと変わった得意技」を大切にすると、思わぬピンチを救ってくれるかもしれませんね。


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