「あの人のまわりには、なぜかいつも人が集まってくる」。そんな人がまわりにいませんか?口がうまいわけでも、自分を売り込むわけでもないのに、自然と信頼されている人。今回は、そんな人柄をたった一言で表した故事成語「桃李もの言わざれども下自ずから蹊を成す」をご紹介します。
「桃李もの言わざれども下自ずから蹊を成す」の意味
読み方は「とうりものいわざれどもしたおのずからみちをなす」です。「桃李(とうり)」は桃とスモモのこと、「蹊(みち)」は人が歩いてできた小道のことです。
桃やスモモは何も言いません。それでも、きれいな花やおいしい実を目当てに人が集まってくるので、木の下には自然と小道ができます。ここから、「徳のある人は、自分から何も言わなくても、その人柄を慕って自然と人が集まってくる」という意味で使われるようになりました。
短く「桃李成蹊(とうりせいけい)」とも言います。東京の成蹊大学の名前も、この言葉から取られているんですよ。
故事成語ができた経緯・歴史
この言葉は、中国・前漢の時代の将軍である李広(りこう)をほめるために使われたものです。李広は弓の名手で、北方の騎馬民族・匈奴(きょうど)から「漢の飛将軍」と呼ばれて恐れられていました。
ただ、李広は口べたで、口数も少ない人だったそうです。それでも部下をとても大切にしていました。ほうびをもらうと部下に分け、行軍中に水や食べ物が足りなくなったときは、兵士全員に行きわたるまで自分は口をつけなかったといいます。そのため兵士たちは李広を心から慕い、「この人のためなら」と喜んで従いました。
李広が亡くなると、知り合いかどうかに関係なく、国中の人がその死を悲しんだそうです。歴史家の司馬遷(しばせん)は、そんな李広の生き方を、昔からあることわざ「桃李不言、下自成蹊」にたとえて称えました。
ビジネスシーンでの使い方(例文3つ)
ビジネスでは、人柄や誠実な仕事ぶりで信頼を集めている人や会社をほめるときに使えます。
- 「部長は朝礼で熱く語るタイプではないけれど、相談に行く人が絶えない。まさに『桃李もの言わざれども下自ずから蹊を成す』だね。」
- 「あのお店は広告をほとんど出していないのに、口コミだけでお客さんが増え続けている。桃李成蹊とはこのことだ。」
- 「派手な営業トークより、約束を守り続けることが大切です。『桃李もの言わざれども下自ずから蹊を成す』の気持ちで、地道に信頼を積み上げていきましょう。」
なお、自分のことを言うと自慢に聞こえてしまうので、他の人をほめるときや、目標・心がまえとして使うのがおすすめです。
原文の出典(書名・原文・読み下し文)
出典:司馬遷『史記(しき)』李将軍列伝(りしょうぐんれつでん)の最後にある「太史公曰(たいしこういわく)」の部分
原文:
余睹李將軍、悛悛如鄙人、口不能道辭。及死之日、天下知與不知、皆爲盡哀。彼其忠實心誠信於士大夫也。諺曰、桃李不言、下自成蹊。此言雖小、可以諭大也。
読み下し文:
余(よ)李将軍を睹(み)るに、悛悛(しゅんしゅん)として鄙人(ひじん)の如く、口辞(じ)を道(い)ふ能(あた)はず。死するの日に及びて、天下知ると知らざると、皆為(ため)に哀(あい)を尽くす。彼(か)の其の忠実なる心、誠に士大夫(したいふ)に信ぜらるるなり。諺(ことわざ)に曰(い)はく、「桃李言はざれども、下自(おの)づから蹊(けい)を成す」と。此の言小なりと雖(いえど)も、以て大を諭(さと)すべきなり。
現代語訳:私が見た李将軍は、田舎の人のように控えめで、うまく話すこともできなかった。しかし亡くなった日には、知り合いもそうでない人も、国中の人が心から悲しんだ。その誠実な心が、人々に深く信頼されていたからだろう。ことわざに「桃やスモモは何も言わないが、その下には自然と小道ができる」とある。小さなことを言った言葉だが、大きな道理を教えてくれている。
まとめ
「桃李もの言わざれども下自ずから蹊を成す」は、言葉で飾らなくても、誠実な行動を続けていれば自然と人が集まってくる、という教えです。SNSや広告で発信することが当たり前の今だからこそ、日々の小さな約束を守り、目の前の人を大切にする姿勢を忘れずにいたいですね。


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