四字熟語ではなく〜その意味と使い方

故事成語

「まず隗(かい)より始めよ」という言葉、会議やスピーチで耳にしたことはありませんか。なんとなく「小さなことから始めよう」という意味で使われがちですが、もともとの意味は少し違います。今から2300年ほど前の中国で生まれた、優秀な人材を集めるための知恵が詰まった言葉なんです。

「隗より始めよ」の意味

「隗より始めよ」は、大きなことを成し遂げたいなら、まず身近なところ、言い出した人自身から始めなさい、という意味の故事成語です。「隗」は人の名前で、中国の戦国時代に燕(えん)という国にいた郭隗(かくかい)という人物を指します。

現在は、おもに次の2つの意味で使われています。

  • 大きな事業を成すには、まず手近なところから着手せよ
  • 言い出した人が、まず率先して実行せよ

もともとは前者の意味でしたが、日本では後者の「言い出しっぺがやりなさい」という使われ方が増えています。どちらも間違いではありませんので、文脈に合わせて使い分けましょう。

故事成語ができた経緯・歴史

舞台は紀元前3世紀ごろ、中国の戦国時代です。燕の国は隣国の斉(せい)に攻め込まれ、ぼろぼろになっていました。国を建て直そうと即位した昭王(しょうおう)は、優秀な人材を集めたいと考え、家臣の郭隗に相談します。

すると郭隗は、こんな昔話を始めました。「ある王様が、一日に千里を走る名馬を欲しがりました。ところが使いの者は、死んだ名馬の骨を五百金もの大金で買って帰ってきます。王様は激怒しましたが、使いの者はこう言いました。『死んだ馬にこれだけ払うのなら、生きた馬ならもっと高く買うはずだと世間は思いますよ』。案の定、一年もたたないうちに、本物の名馬が三頭も持ち込まれたそうです」

そのうえで郭隗は言いました。「本気で人材が欲しいなら、まずこの私を厚遇してください。たいした才能もない私が大事にされるなら、もっと優秀な人はこぞって集まってきます」。昭王はこの提案を受け入れ、郭隗のために立派な屋敷を建て、師として仕えました。すると噂を聞きつけた楽毅(がっき)や鄒衍(すうえん)といった一流の人材が次々と燕に集まり、やがて燕は宿敵の斉を打ち破るまでに強くなったのです。

ビジネスシーンでの使い方(例文3つ)

  • 「全社でペーパーレスを進めるなら、隗より始めよです。まず経営会議の資料から紙をなくしましょう」
  • 「新しい評価制度に不安の声が多いようですね。隗より始めよ、提案した私たちの部署から試験導入します」
  • 「DX推進といっても何から手をつけるか……隗より始めよで、毎日使う日報の入力からデジタル化してはどうでしょう」

ポイントは、相手に「やれ」と迫る言葉ではなく、自分が率先すると宣言する場面で使うと、とても印象がよいということ。逆に、上司や取引先に向かって「隗より始めよですよ」と言うと、遠回しな催促に聞こえてしまうので注意しましょう。

原文の出典

書名:『戦国策(せんごくさく)』燕策(えんさく)
戦国時代の各国の逸話や弁舌を集めた歴史書で、前漢の劉向(りゅうきょう)が編纂したとされています。

原文:今王必欲致士、先従隗始。隗且見事、況賢於隗者乎。豈遠千里哉。

読み下し文:今、王必ず士を致さんと欲せば、先ず隗より始めよ。隗すら且つ事(つか)えらる、況(いわ)んや隗より賢なる者をや。豈(あ)に千里を遠しとせんや。

現代語訳:王様が本気で優秀な人材を招きたいのなら、まずこの隗から始めてください。隗のような者でさえ師として仕えてもらえるのなら、隗より賢い人物ならなおさらです。千里の道も遠いとは思わず、やって来るでしょう。

まとめ

「隗より始めよ」は、遠くの理想を語る前に、まず足元の一歩を踏み出すことの大切さを教えてくれる言葉です。組織を変えたいとき、いちばん効くのは号令ではなく、言い出した人自身が動いて見せること。明日の朝礼で語る前に、今日の自分の仕事から変えてみませんか。

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